リセットを重ね、
新しい価値を創る
株式会社タイソンズアンドカンパニー
代表取締役社長
寺田心平
デポルターレクラブには、トップアスリート、経営者、文化人、芸能人など幅広い業界の一流の方が多く通っていただいています。そうした一流の会員様がトップランナーとして走り続けるためには、ライフスタイルや日常の習慣にその理由が隠されています。そこで、デポルターレクラブでは、代表・竹下雄真と会員様との対談企画をスタート。日ごろ実践している健康法やウェルネスに対する考え方、そして、忙しい日々の中、どのようにスケジュールを管理しているかを聞き、一流の会員様が一流である所以に迫ります。連載第8回目は、株式会社タイソンズアンドカンパニーの代表取締役社長・寺田心平さんをゲストにお招きしました。
竹下 寺田さんとはもう10年以上のお付き合いになりますね。飲食業界を代表する経営者としていつも刺激をいただいています。今日はまず、現在取り組まれているプロジェクトについて教えてください。
寺田 ここ数年は京都での事業にかなり力を入れてきました。2023年、京都の河原町にカフェレストラン「Kacto」をオープンしたのですが、ちょうどコロナ禍が明け、海外からのお客様も戻ってきていたタイミングだったこともあり、いいスタートを切ることができました。東京以外で新しく出店する場所を考えたとき、いろいろな街を見ましたが、僕たちが目指す店づくりに一番合っていると思ったのが京都だったんです。料理だけではなく、空間や時間も含めて一つの体験として提供する。その価値をきちんと評価していただける街だと感じました。最初は「まず一店舗だけやってみよう」という気持ちだったんですけどね(笑)。
竹下 あれを「試し」と言う人はなかなかいませんよ(笑)。
寺田 でも、その一軒が思いもよらないご縁につながりました。ある日、家主さんから祇園のバーに来てほしいと電話があったんです。当時はまだ東京から来たばかりでしたし、「何か失礼なことをしたかな」と少し身構えていました。ところが、お会いすると、「うちの店を引き継ぎませんか」と切り出されたんです。本当に驚きました。それが、この創業238年の水炊き料亭「鳥彌三」との出会いでした。
竹下 京都で仕事をされるようになって、一番魅力に感じていることは何でしょうか。
寺田 京都は想像していたよりも小さなコミュニティなんです。しかも、そのコミュニティが驚くほど深い。最近、京都の方から「京都はロールプレイングゲームみたいな街だ」と言われたことがあって(笑)。一人の人に会うと、この人につながる。その先でまた新しい世界が開ける。まさに、そんな感覚があります。文化への意識が高い方が多く、経営者同士が直接会って話をしながら物事がどんどん進んでいく。そのスピード感も、とても心地いいですね。
竹下 東京から来た方が京都を代表する老舗を受け継ぐというのは、並大抵のことではなかったと思います。
寺田 そうですね。京都では「東京の人が老舗を買った」とあまり好意的に受け止められないこともありますから、最初はとにかく多くの方にお会いして、自分のことを知っていただくところから始めました。「東京で流行っている店をやっています」という姿勢では、きっと受け入れて頂けなかったと思います。この街の文化を尊重し、その中に溶け込もうとしているかどうかを、本当によく見ていらっしゃるんです。
竹下 一番苦労されたことは何でしたか。
寺田 一番悩んだのは、「何を残して、何を変えるか」というバランスです。変えすぎれば老舗らしさが失われますし、逆に変えなければ現代の店舗として機能しません。建物は登録有形文化財であり、京都市の景観重要建造物にも指定されています。外観はもちろん、内部も大きく変更することはできません。そこで数寄屋建築の専門家にも入っていただき、「ここは残す」「ここは現代の設備を入れてもいい」という線引きを一つずつ確認しながら進めました。昔からのお客様に「ほとんど変わっていないね」と言っていただけることがありますが、それは僕にとって最高の褒め言葉なんです。一方で、細かな違いに気づく方からは「きれいになった」「使いやすくなった」と言っていただける。歴史を守りながら、今の時代に合った形へアップデートする。その絶妙なバランスを追求したプロジェクトだったと思います。
竹下 昨日も朝はジムでトレーニングをされて、その後東京から京都へ移動し、夜はディナーイベントでしたよね。体力が本当にすごいなと思いました。
寺田 体を動かすことは昔から好きです。京都でも時間があれば走っていますし、旅先には必ずランニングシューズを持っていきます。走ると、車では気づかない街の表情が見えてくるんですよ。路地や川沿い、小さなお店など、新しい発見がたくさんあるので、それも楽しみの一つですね。
竹下 寺田さんは趣味というレベルではなく、サハラ砂漠マラソンや北朝鮮のフルマラソンにも挑戦されていますよね。
寺田 そうですね(笑)。僕にとってランニングは自分をリセットする時間なんです。仕事をしていると、頭の中は常に動き続けています。だから一度そこから離れて、自分の体と向き合う。考え事をしながら走ることもありますし、逆に何も考えず走る日もあります。走り終えた後の爽快感は何ものにも代えがたいですね。もちろん体力維持という意味もありますが、それ以上に心を整える時間になっています。
竹下 今日は「ウェルネス」をテーマにお話を伺っていますが、寺田さんご自身が日頃意識されていることはありますか。
寺田 僕にとってウェルネスは、「心」と「体」の両方が整っている状態です。特に心のコンディションは意識していますね。そのために仕事から完全に離れる時間をつくるようにしています。茶道でお茶を点てる時間もそうですし、ジムもそうです。普段は会社で判断をする立場なので、自分で決めることばかりです。でもジムでは、トレーナーに「これをやってください」と言われたことだけをやる。それが、すごく楽なんです(笑)。そういう小さなリセットを積み重ねることが、結果として仕事のパフォーマンスにもつながっていると思います。
竹下 食事についてはいかがですか。
寺田 飲食業なので外食も多いですが、そのぶん、何を体に入れるかはすごく意識しています。"You are what you eat"──「人は食べたものでできている」という言葉がありますが、本当にその通りだと思っています。年齢とともに代謝も体質も変わりますから、若い頃と同じようにはいきません。できるだけ添加物は避けますし、自分の体が嫌がるものは極力摂らないようにしています。以前、遅延型アレルギーの検査を受けたところ、卵に強い反応が出たんです。それ以来、卵の摂り過ぎには気をつけるようになりました。大好きなフルーツも、以前はメロン半玉やマンゴーを丸ごと食べていましたが(笑)、今は果糖の摂り過ぎにならないよう量を調整しています。年齢に合わせて、自分の体と相談しながら食事を変えていくことも大切だと感じています。
竹下 今日は「ウェルネス」をテーマにお話を伺っていますが、寺田さんご自身が日頃意識されていることはありますか。
寺田 僕にとってウェルネスは、「心」と「体」の両方が整っている状態です。特に心のコンディションは意識していますね。そのために仕事から完全に離れる時間をつくるようにしています。茶道でお茶を点てる時間もそうですし、ジムもそうです。普段は会社で判断をする立場なので、自分で決めることばかりです。でもジムでは、トレーナーに「これをやってください」と言われたことだけをやる。それが、すごく楽なんです(笑)。そういう小さなリセットを積み重ねることが、結果として仕事のパフォーマンスにもつながっていると思います。
竹下 食事についてはいかがですか。
寺田 飲食業なので外食も多いですが、そのぶん、何を体に入れるかはすごく意識しています。"You are what you eat"──「人は食べたものでできている」という言葉がありますが、本当にその通りだと思っています。年齢とともに代謝も体質も変わりますから、若い頃と同じようにはいきません。できるだけ添加物は避けますし、自分の体が嫌がるものは極力摂らないようにしています。以前、遅延型アレルギーの検査を受けたところ、卵に強い反応が出たんです。それ以来、卵の摂り過ぎには気をつけるようになりました。大好きなフルーツも、以前はメロン半玉やマンゴーを丸ごと食べていましたが(笑)、今は果糖の摂り過ぎにならないよう量を調整しています。年齢に合わせて、自分の体と相談しながら食事を変えていくことも大切だと感じています。
竹下 睡眠も大切ですよね。
寺田 本当にそうですね。京都で複数のプロジェクトを同時に進めていた時期は、ホテル生活が続いていました。環境が変わると眠りも浅くなりますし、オープン前後は慢性的な睡眠不足でした。会議中に寝落ちしそうになることもありました(笑)。今振り返ると、体だけではなくメンタルにもかなり影響が出ていたと思います。結局、食事・運動・睡眠、この3つが基本ということです。特別なことではなく、基本的なことを丁寧に続けること。それが一番難しいんですが、一番効果があるんですよね。
竹下 一日の過ごし方も教えていただけますか。
寺田 睡眠は6〜7時間くらいですね。朝は必ずフルーツを食べて、パンやヨーグルト。時には納豆などをいただきます。納豆は餅と一緒に食べるのがお気に入りです。昼は味のチェックも兼ねて自分の店で食事をすることがほとんど。夜も会食ばかりではなく、自分の店でスタッフと話しながら食事を済ませる日が少なくありません。店の空気やスタッフの表情からその日のコンディションがよくわかるので、17店舗ある今でも、できるだけ現場へ足を運ぶようにしています。
Shimpei Terada’s
Basic Time Schedule (Week Days)
竹下 睡眠も大切ですよね。
寺田 本当にそうですね。京都で複数のプロジェクトを同時に進めていた時期は、ホテル生活が続いていました。環境が変わると眠りも浅くなりますし、オープン前後は慢性的な睡眠不足でした。会議中に寝落ちしそうになることもありました(笑)。今振り返ると、体だけではなくメンタルにもかなり影響が出ていたと思います。結局、食事・運動・睡眠、この3つが基本ということです。特別なことではなく、基本的なことを丁寧に続けること。それが一番難しいんですが、一番効果があるんですよね。
竹下 一日の過ごし方も教えていただけますか。
寺田 睡眠は6〜7時間くらいですね。朝は必ずフルーツを食べて、パンやヨーグルト。時には納豆などをいただきます。納豆は餅と一緒に食べるのがお気に入りです。昼は味のチェックも兼ねて自分の店で食事をすることがほとんど。夜も会食ばかりではなく、自分の店でスタッフと話しながら食事を済ませる日が少なくありません。店の空気やスタッフの表情からその日のコンディションがよくわかるので、17店舗ある今でも、できるだけ現場へ足を運ぶようにしています。
竹下 あらためて、寺田さんご自身の歩みについてもお聞かせください。学生時代から飲食の道を目指していたわけではなかったそうですね。
寺田 まったく考えていませんでした。実家は寺田倉庫ですが、長男が家業を継ぐだろうと思っていましたし、自分は自分のやりたいことをやろうと考えていました。学生時代から興味があったのは国際的な仕事です。アメリカで国際ビジネスを学び、その後は中国語を身につけるため北京へ留学しました。卒業後は台湾の百貨店で働き、「アジアで仕事をしたい」という思いでキャリアをスタートさせたんです。ところが一年ほど経った頃、父から「T.Y.HARBORを立て直してほしい」と相談を受けました。当時は経営がかなり厳しく、社内も混乱している状況だったんです。
竹下 そこで人生が大きく変わったんですね。
寺田 そうですね。台湾での仕事を辞めて戻りましたが、正直、最初は「来なければよかった」と思いました(笑)。毎日のように問題が起き、スタッフ同士の対立もあり、経理がまったく機能していない。26歳の自分には荷が重すぎる状況でした。それでも、一つずつ課題を解決しながら会社を立て直し、3年ほどかけて会社を黒字化することができました。そこからようやく、「自分たちが本当に作りたい店を作ろう」という現在の店づくりが始まったんです。
竹下 数々の人気店を生み出されてきました。寺田さんのお店は、どれも世界観がまったく違いますよね。
寺田 よく「どの店が一番好きですか」と聞かれるんですが、それは「子どもが5人いたら誰が一番好きですか」と聞かれるようなものなんです(笑)。全部好きなんですよ。だから、フランチャイズで何百店舗も広げたいという考えは昔からありません。立地があり、建物があり、料理があり、サービスがある。そのすべてが揃って初めて一つの世界観になります。僕は経営者というより、どちらかというとクリエイターなんだと思います。一軒一軒が、自分にとって作品なんです。同じものを量産するよりも、それぞれの場所にしかない価値を丁寧につくり続けたいと思っています。
竹下 今回、京都で老舗料亭を受け継がれたことも、新しい挑戦でしたね。
寺田 そうですね。これまで興味を持って学んできたことが、京都ではすべて一つにつながったような感覚があります。和建築、日本文化、茶道、書道、職人の技術……。例えば、鳥彌三の暖簾に書かれている文字も、自分で書いたんです。本当は書家の先生にお願いしようと思っていたら、「自分で書きなさい」と言われまして(笑)。そこから半年ほど毎日書き続けて、ようやく納得できる一枚になりました。茶道を続けてきたことも、床の間の設えや空間づくりを考える上で、とても役立っています。一見、仕事とは関係ないように思える経験でも、振り返ると必ずどこかで生きてくるものなんですよね。だから今でも、新しいものを見たり、新しい体験をしたりすることを大切にしています。海外へ視察に行くのも、美術館へ行くのも、ホテルに泊まるのも、レストランへ行くのも、すべて自分の引き出しになります。
クリエイティブな仕事は、アウトプットだけでは続きません。良いアウトプットを生み出すためには、それ以上に良いインプットが必要なんです。年齢を重ねるほど、人は慣れた場所や慣れた人との時間を選びがちです。でも、それでは感性も止まってしまう。だから意識して新しい場所へ行き、新しい人と出会い、新しい文化に触れることを続けています。
竹下 僕も、以前は海外ばかりに目が向いていましたが、今は日本には世界に誇れるものが本当にたくさんあると実感しています。寺田さんが京都で取り組まれていることも、その価値を未来へつないでいく仕事ですよね。
寺田 海外で暮らしたからこそ、「日本には、こんなに素晴らしい文化があるんだ」と改めて気づくことがたくさんあります。京都は、その象徴のような場所ですよね。一方で、後継者不足や建物の維持が難しくなり、長い歴史を持つ店が姿を消してしまうケースも少なくありません。だから今回のような形で老舗に関われたことには、大きな意味があると感じています。
竹下 最後に、これから挑戦したいことを教えてください。
寺田 今回の京都でのプロジェクトは、自分にとって人生の大きな転機になりました。京都は単なる新しい出店先ではなく、日本文化の中心に身を置きながら、新しい価値を生み出せる場所だと思っています。これからもご縁があれば、老舗に関連した仕事や、日本文化を未来へつなぐような仕事に携わっていきたいですね。海外から日本を訪れた方が、「日本はすごい」「日本へ行くなら、あそこへ行きたい」と語ってくださるような場所を、一つでも多くつくっていきたい。それが、今の私が目指していることです。
寺田 心平(てらだ・しんぺい)
株式会社タイソンズアンドカンパニー代表取締役社長。慶應義塾大学卒業後、カリフォルニア大学サンディエゴ校大学院修士課程を修了。中国留学、台湾での勤務を経て1999年にタイソンズアンドカンパニーへ入社し、2002年に代表取締役社長へ就任。
「T.Y.HARBOR」をはじめ、「CICADA」「IVY PLACE」「Kacto」など、多彩なレストランやカフェをプロデュース。料理だけでなく、建築やデザイン、サービス、街との関係性までを含めた体験価値を重視した店づくりを手がけ、日本のレストランカルチャーを牽引。
近年は京都を拠点とした事業にも注力し、創業238年の老舗料亭「鳥彌三」の経営を引き継ぐなど、日本文化や歴史を未来へつなぐプロジェクトを推進。「地域に根差し、長く愛される場所をつくる」ことを信条に、新たな価値創造に挑戦し続けている。
店舗詳細:https://toriyasa.jp/
鳥彌三(とりやさ)
天明8年(1788年)創業。京都・木屋町で230年以上の歴史を受け継ぐ水炊き料亭。二度の京都の大火をくぐり抜けた歴史的建造物を舞台に、代々受け継がれてきた秘伝の白濁スープによる水炊きを提供している。鶏ガラと敷地内に湧く井戸水だけで丁寧に炊き上げる伝統の味と、四季折々の京都の風情を感じられる空間が、多くの人々を魅了してきた。現在は株式会社タイソンズアンドカンパニーが事業を継承し、歴史や文化を尊重しながら、現代にふさわしい新たな価値を創造する取り組みを進めている。