備えて挑み、ふたたび力を蓄える。
この繰り返しで、戦いは延々と続いていく。
このとき、求められるものはリカバリー力。
それはアスリートのみならず、各々のフィールドで戦う、
すべての人に必要なのだ。

石川歩 Ayumu Ishikawa
1988年生まれ、富山県出身。中部大学、東京ガスを経て2013年ドラフト1位で千葉ロッテマリーンズ入団。プロ入り以降3年連続で2桁勝利を達成。2014年度パ・リーグ新人王、2016年度最優秀防御率投手賞獲得。2017年WBC日本代表選出。
吉田麻也 Maya Yoshida
1988年生まれ、長崎県出身。名古屋グランパス、VVVフェンローを経て、2012年イングランド・プレミア・リーグのサウサンプトンFCに入団。著書に『レジリエンス-負けない力』(ハーパーコリンズ・ジャパン)などがある。

常に最高のパフォーマンスを求められ、確実に結果を出す人物こそ、トップアスリートと呼ぶ価値がある。だが、トップアスリートといえども人は人。世界を舞台に戦うとなれば、精神的にも肉体的にも相当な負荷がかかるのは当然だ。

2018年ロシアで開催されたワールドカップ。迫力溢れる連戦が続き、世界がしびれたこの大会で全試合出場し、完璧に戦い抜いた吉田麻也選手は、帰国した翌日こんなことを語っている。

「中3日の日程で試合が続き、緊張の抜けない毎日でした。1戦目にアプローチしてすべてを捧げ、それが終わるとまた3日で次の試合の準備をする。ピッチの状況とか天気とか、もちろん相手チームの状態とか、いろいろなものを計算し、自分のコンディションも整える。その準備が難しかったですね」

備えて挑み、ふたたび力を蓄える。この繰り返しで、彼らの戦いは延々と続くのだ。

言葉を変えれば、こうした作業はrecovery(リカバリー)ということになる。リカバリーは決して失敗を許されない、トップアスリートならではの使命である。

「リカバリーで大事なのは、普段からいいコンディションを持続すること。コンディションが下がったから何かをするのではなくて、ベストの状態から落ちないように手を打つことが大事なんです」

吉田選手は続ける。

「車もそうじゃないですか。壊れてからガレージへ行くんじゃなくて、定期点検をして壊れないようにする。その定期点検が僕らでいうところの、毎日のメンテナンスであり、これを積み重ねることがリカバリーだと思うんです」

戦うフィールドは違っても、リカバリーの重要性は変わらない。ロッテマリーンズの大黒柱として活躍し、2017年にはWBC日本代表にも選出された石川歩投手はこう話す。

「先発ピッチャーは1試合登板すると、翌日は体がパンパンに張ってキャッチボールもできないくらい。でも、中継ぎだと毎日良いコンディションをキープし続けなければならない一方、連日投げるわけではないので、一気に体に負荷がかかることもない。これが先発の難しさで、1週間のうち、登板するたった1日のために、残り6日は常にリカバリーし続けているという感じです」

登板翌日は、長い距離をゆっくり走ったり、軽めのウエイトをしたりする。それから、熱い湯と冷たい水に交互に浸かる交代浴で疲労した細胞に刺激を与え、修復する。

さらにその翌日は完全オフ。マッサージで体をケアし、とにかく疲れを癒すことに集中する。

「トレーニングしていた時期もありますが、完全に休養することも必要だと考え、思い切って一切やめたんです。プロに入って、2年目の頃かな。最初は練習しないことが不安でしたが、完全オフにしたらかえって体調が良くなった。そこから登板の翌々日は完全オフというのが習慣になりました」

最高のコンディションをキープすることに対するプライオリティが絶対的に高く、それを邪魔する要因は、徹底的に排除する。心身ともにベストなポジションにいる限り、結果はおのずとついてくる。それが想像から現実に変わったとき、石川投手のプロ意識はさらに進化を遂げたのだ。

吉田選手はかつて、「ディフェンダーに必要なのはインテリジェンス」と語った。ではインテリジェンスを作るためには何が必要なのかと尋ねると、彼は考えながらこう言った。

「『準備』と『予測』ですね。いい準備をしていないと、試合中、太刀打ちできないから。来たといってリアクションしていたら、絶対に勝てない。いろいろな選択肢がある中で、自分がボールを取れる選択肢やゴールを取られない選択肢を考え続ける。わずか1秒もない時間で、その準備と予測を繰り返さなくちゃいけないからフィジカルだけでなく、メンタルでもかなりキツいですね」

準備と予測。おそらく、その言葉はリカバリーの本質を言い当てている。吉田選手はイチロー選手の言葉を借りてこう言った。

「準備というのは、いいわけとなる要素を排除すること」

いいわけとは甘えであり、将来の可能性を狭めるもの。この自制と自律の姿勢はアスリートのみならず、それぞれのフィールドで戦い続けるすべての人に、おそらくヒントになるはずだ。